大河ドラマ評論家先生より

今日は、私の友人である「大河ドラマ評論家」大先生のコメントを読んでいただきます。今年のNHK大河ドラマ、「西郷(せご)どん」も昨日で10話目ということで、序盤での大先生の深い洞察力を堪能ください。

 

『久しぶりの連休だったので、撮りだめしておいた大河ドラマ「西郷どん」を連続で見た。昨年の大河ドラマ「おんな城主、直虎」の主人公、井伊直虎が「ほとんど誰も知らなかった人」に対して、「西郷どん」の主人公、西郷隆盛は、上野公園の銅像の知名度もあってか、日本人でその名を知らない人はいないであろう。

 

これまで、幕末ものがドラマ化された際には、西田敏行さん、里見浩太朗さん、中村富十郎さんをはじめとした、あまたの名優たちが演じ、大河ドラマで主人公として取り上げられるのは、司馬遼太郎原作「翔ぶが如く」以来、28年ぶり2度目である。

 

その際、西郷を演じた西田敏行さんが今回はナレーター、大久保利通を演じた鹿賀丈史さんも、島津斉興役でゲスト出演。井伊直弼役を演じている佐野史郎さんも、前回、有村俊斎役で出演されていた。長く大河ドラマを見ていると、この様な配役が本当に嬉しい。

 

前回の「翔ぶが如く」の際には、歴史好きが高じて、西郷隆盛に関する本は結構読んだと思う。少し月日が経ってから、ひとり旅で、熊本から鹿児島を回り、鹿児島市内に残る西南戦争時の弾痕に本当に驚いた。 明治維新から150年といっても、もう50年以上生きている身としては、時代や価値観は変われども、それほど大昔の出来事ではなかったのだなと改めて思う。

 

ネタバレになるので詳しくは書かないが、どちらかと言うと浮き沈みの激しい人生で、生涯の最後の最後まで波乱万丈。賊軍として城山で殉じた人々から明治天皇に至るまで実に幅広い多くの人々を魅了し、名誉回復された後は、言うまでもなく「国民的な偉人」となった。

 

ただ、正直な感想として、調べれば調べるほど「「1日接すれば1日の愛生ず」とも言われた、その人間的な魅力とは何だったのだろう」とか「最後は何を目指していたのだろうか」という「実像」が本当に分からなくなるのが不思議である。

 

特に明治維新後の行動に関しては謎が深い。 西南戦争挙兵に関しても、西郷に個人的に魅了されていたといわれる英国の外交官、アーネスト・サトウの手記を読んでいると、自身が主体的に行動したとはとても言えないのではないだろうと思ってしまう。

 

世に知られた「偉人」としてのエピソードと並行して「坂本龍馬暗殺の黒幕だった」とか「幕府方から開戦させる為に、相楽総三を使って江戸の治安を混乱させた」等の負の仮説も未だに絶えない。正式な写真が1枚も残っていないというのも何ともミステリアスではある。

 

虚像と実像を交えながら「ドラマ」ゆえに許されたフィクション(斉彬を相撲で投げ飛ばしたり、遊郭での一橋慶喜の出会い等)を時に交え、これまでの西郷像を踏まえた上で新たな西郷像を作り上げる事ができれば、視聴率は別としてドラマとしては成功であろう。

 

今回の「西郷どん」はまだ序盤だが、原作が林真理子さん、脚本が中園ミホさんという事もあり、単なる歴史的な事実のみならず、女性の目から見た「(言葉を含めた)生活感」というものが巧みにドラマに盛り込まれているし、話の展開もスピーディーに感じる。 (前回の「翔ぶが如く」の脚本家は「3年B組金八先生」原作者の小山内美江子さんなのだが、まだ司馬遼太郎さんが存命中だったので自由にはできなかったと推察される)

 

劇中のサウンドトラックも、「翔ぶが如く」では現代音楽の作曲家でドラマ全体が重たくなってしまったのに対して、今回は明るい曲調が多い。歴代の音楽担当者として最年少であるらしいが才能を大いに感じる。 名曲が多い大河ドラマのテーマ曲の中でも、個人的に特にお気に入りである。

 

ドラマの冒頭で描かれた、上野の銅像(高村光太郎の父親が製作した)除幕のエピソード(未亡人である糸子が「似ていない」と呟いたと言われている)が実はフィクションである可能性が高いとか、大奥から下がった後、行方不明とされていた幾島の晩年等、近年の研究成果も色々と新事実を判明させている。

 

今回の「西郷どん」。脚本の巧さや、出演者の好演(特に渡辺謙さん流石の存在感)により、本当に複雑な幕末の時代背景を分かりやすく視聴者に理解させながら、西郷隆盛の人生を魅力的に描き出す「歴史ドラマ」として、今後も大いに期待できそうである。』

 

いつものように、大先生には無断で、コメントを掲載させていただきました。

 

明治維新から150年が経過した現在、過去の出来事とは簡単には言えません。長い歴史を考えれば、まだ最近の出来事です。日本が大きく変わった幕末をドラマとともに楽しんで勉強しながら、子どもにも、親の言葉で伝えたいですね。歴史を学ぶことは、これからの未来を作るうえで、とても大切な事なのです。