大人の昔話③「約束を守る」

昭和24年に、木下順二さんによる戯曲「夕鶴」が発表されました。これは、誰もが知っている昔話「鶴の恩返し」がベースのストーリーです。

 

「夕鶴」のストーリーは、本来の昔話よりも複雑で、「お金」に取りつかれていく人間と「お金」を理解しない鶴という対比によって、暗に経済至上主義への批判という内容となっています。戦後まもない頃の時代背景もありますね。

 

 

では、昔話の「鶴の恩返し」の最後のシーンです。

 

嫁(鶴)は、またテンカラ、テンカラと機(はた)を織り、男はだんだんと金持ちになったと。ところが嫁の顔色がだんだん悪くなり、なんだか元気がない。

 

男が「おめえ、あんまり働くから、機織りをちっとやめれや」と言っても、「いや、なんともねえ」と嫁は機を織る。

 

心配になった男は、とうとう戸をこっそりあけてのぞいてみたと。すると、一羽のツルが自分の羽を抜いては織り、抜いては織りしていた。鶴にはもう羽がなくなって、赤裸だったと。

 

男に気づいたツルは、「おれ、助けてもらったツルだ。寒い時に助けてもろうて、ほんとうにありがたかった。恩返しに来たが姿を見られたけ、ここにいらんねえ」と言った。

 

男は、「おらが悪かった。いかんでくれ」と頼んだが、ツルは飛んで行ってしまったと。

 

約束をきちんと守っていれば、いつまでも今の幸せな生活を送ることができる・・・昔話を通じて、子どもたちへの教訓にするには効果的ですね。しかし、昔話の世界では、しばしば約束が守れずに、悲しい結末を迎える話も多いです。

 

この「鶴の恩返し」もそうですし、「雪女」では、自分の父を殺した雪女が妻になり、その時の話をしたために、雪女は去っていきます。雪女に殺されなかったことが救いですね。

 

あの国民的童話「浦島太郎」も、決して開けてはいけないと言われた玉手箱を開けてしまったために、白髪のおじいさんになるという不幸に見舞われます。

 

「覗かないで」「開けないで」という、単純な約束事なのに、人は好奇心や欲望に勝つことができず、ついつい破ってしまうのです。

 

私たちの現実の世界でも言えることですし、子どもたちが、大人になっていくまでに、約束を守らなかったばかりに、痛い目に合うことを経験するかもしれません。

 

大人の私たちは、昔話から、正直に生きるための、簡単なことを学ぶことができるのです。