大人の昔話⑦「人の一生に重ねる」

「かぐや姫」に登場するお爺さん、お婆さんは、かぐや姫が成長しても、さらに年寄りにはなりません。桃太郎の場合も同じですね。そもそも、昔話の舞台や登場人物には、特定の場所や時間は設定されていません。話を聞いている子どもたちが、想像力を働かせて、自由に場所や人物像を決めているので、お爺さんやお婆さんは、ずっと、そのままで問題ないのです。

 

また、登場人物の性格は、善人か悪人でしかありません。置かれている境遇は金持ちか貧乏人、そして、知恵者か愚者といった、極端な設定となっています。普通の人間なら、心の中に善悪両方を持っていますね。しかし、人を極端に表現することでキャラクターがはっきりと確立されます。「この人は悪い人なんだ」と、子どもたちは不必要な迷いを抱くことがないのです。

 

富を象徴する大判小判や、好意を表す贈り物など、昔話の中では、全てが何かを象徴しているのも面白いところです。

 

子どもたちは、男女問わず、変身ヒーローものが大好きです。昔話の登場人物がたくましく成長し強く変身していく様は、今の自分を変えてみたい、本当の自分は驚くほどの力を持っている・・・そんな夢を見ているのかもしれません。

 

さらに変身といえば、動物や妖怪が人に姿を変え、人と結婚したり、騙したりする話も多いです。だいたい正体がバレてしまうのも、子どもたちに「ありのままの自分がいい」というメッセージを与えているのかもしれません。

 

人の世に起こるかもしれない様々な出来事を、子どもにでもわかるようにシンプルに、しかも心に刻みつけられるほど極端で衝撃的に語り継がれたのが昔話ですね。そこには単に面白いというだけではなく、人として生きていくうえで大事な知恵や処世術も含まれています。なにしろ、昔話には、出生から成長、栄達、結婚、没落、殺人など、様々な場面が登場します。そうした意味から、昔話の世界は人の一生に重ねされることができるのかもしれません。

 

どうですか・・・大人になって、昔話を読んでみると、子どもの頃の懐かしい思い出だけでなく、さらに深い、人生を読み取ることができますね。