生き物の死にざま① ハサミムシ

保育園の子どもたちにとって、生き物とのふれあいは日常的です。教室では、ケヅメリクガメこと「かめきち」が仲間入りし、ウーパールーパーなどをアクアテラリウムの水槽で飼っています。先日は、アオムシからモンシロチョウに羽化するまでを観察しました。

 

屋上では、どろんこ広場の池には、ニホンイシガメやカエルに多くの魚たちが暮らしています。ミドリガメのおうち・クサガメのおうちに、アメリカザリガニのいけすもあります。ビートルハウスではカブトムシを1年間飼育し、チョウやトンボに土の中からは多くの幼虫やダンゴムシなどの虫が現れます。

 

てんとう虫・カメムシ・カミキリムシ・カナブン・クマバチ・・・もうきりがないくらいの生き物の中で、子どもたちが遊んでいるのです。

 

年末年始は、そんな生き物たちの「死にざま」について紹介していきます。意外に、知らないことが多いかもしれませんね。今日は、「ハサミムシ」です。

 

屋上のファームの中や、石をひっくり返すと、ハサミムシがハサミを振り上げて威嚇してきます。子どもたちはダンゴムシは簡単に触れますがハサミムシにはビビリます。(笑)

 

実は、逃げるハサミムシはオスで、卵を抱えたメスは、逃げることなくその場でハサミを振り上げるのです。昆虫の仲間で、子育てをする種類は、きわめて珍しいのです。

 

昆虫は、自然界では弱い生き物です。カエルやトカゲ、鳥や哺乳類など様々な生き物が昆虫をエサにします。そんな昆虫の親が子どもを守ろうとしても、親ごと食べられてしまうのです。これでは元も子もありません。そのために、多くの昆虫が、子どもを保護することをあきらめて、卵を産みっぱなしにせざるを得ないのです。

 

厳しい自然界で、子育てできることは「子どもを守る強さ」を持つ生き物だけに許された特権なのです。ハサミムシは、「ハサミ」という武器を持ち、メスが卵を守る生き方を選択したのです。

 

ハサミムシは成虫で越冬し、春の初めに卵を産みます。母親のハサミムシは、卵がかえるまで40日間も、卵に体を覆いかぶさるようにして守ります。卵にカビが生えないように1つ1つ順番になめたり、空気を当てるために卵の位置をうごかしたりと、丹念に世話をします。その間、母親は飲まず食わずだそうです。

 

そして、ついに卵がかえり、愛する子どもたちの誕生です。しかし、母親の仕事はこれで終わりではありません。ハサミムシはダンゴムシや芋虫などを食べる肉食です。しかし、ふかしたばかりの小さな幼虫は、獲物を獲ることができません。幼虫たちは、空腹に耐えながら、甘えてすがりつくように母親の体に集まっていきます。

 

これが、儀式の最初です。いったい、何が始まろうとしているのか・・・

 

あろうことか、子どもたちは、自分の母親の体を食べ始めるのです。ハサミムシの母親は、卵からかえった我が子のために、自らの体を差し出すのです。そんな母の思いを知っているのか・・・子どもたちは先を争うように、母親の体をむさぼり食う。

 

母親は動くことなく、子どもたちを見守っています。そして、少しずつ体を失っていきます。しかも、失われた体は、子どもたちの血となり肉となるのです。

 

子どもたちが母親を食べ尽くした頃、季節は春を迎えます。そして、立派に成長した子どもたちはそれぞれの道へと進んでいくのです。母親の亡骸(なきがら)を残して。

 

どうですか・・・ハサミムシの死にざまは。屋上の土の中から出てくるハサミムシは、しっぽのハサミを振り上げて、憎たらしい恰好をしていますが、こんな物語があったのですね。