生き物の死にざま② アカイエカ

昨日は、かつて一緒に汗を流した仕事仲間の墓参りに行ってきました。亡くなって5年になります。いつものように、今年一年の世の中のことや保育園のことなどを一方的に話します。もちろん、コロナで大変だったことは、空の上から見ていたでしょうが、こうして、年末に報告するのが私の習慣となりました。

 

いつもなら、ついでに都内の話題のスポットを散策するのですが、なぜか、谷中の商店街をブラブラしたくなりました。少しだけ、観光地のような感じにはなっていますが、昔ながらの商店街はいいものです。酒屋さんの前にビールのボックスを重ねて、簡易なテーブルで地元の常連が酒を飲んでいます。八百屋・魚屋・肉屋・豆腐屋が、そのまま活気があるのが、何ともいいですね。肉屋のおいしいメンチカツを食べ歩きです。(笑)

 

さて、今日の生き物の死にざまは「アカイエカ」です。

 

「彼女に与えられたミッションはこうだ。何重にも張り巡らされた防御網を突破し、敵の隠れ家の奥深くに侵入する。そして、敵に気づかれないように、巨大な敵の体内から赤い血を奪う。もちろん、それで終わりではない。そこから、さらに防除網をかいくぐって見事に脱出し、無事に帰還しなければならないのだ」

 

どうですか・・・アカイエカは、こんなハードミッションをこなしているのです。彼女というのは、私たちの血を吸うのはメスだけだからです。

 

蚊はメスもオスもふだんは花の蜜や植物の汁を吸って暮らしています。実に穏やかな昆虫ですが、あるとき、メスの蚊は吸血鬼となるのです。メスは、卵の栄養分としてたんぱく質を必要とします。そのために、動物や人間の血を吸わなければならないのです。

 

蚊の一生は短い・・・古いバケツや空き缶などにたまったわずかな水があれば蚊は産卵できます。卵は数日でふかし、幼虫のボウフラとなり、1~2週間という短い間に成虫となるのです。まずかな水が干上がる前に蚊は飛び立つことができるのです。メスの蚊は、血を吸って卵を産むことを繰り返しながら、運がよければ1か月生きるそうです。蚊は、一年の間に、この短いサイクルを繰り返して世代を更新しているのです。

 

私たちがよく見かけるのは、茶褐色のアカイエカと白黒模様のヒトスジシマカこと「やぶ蚊」です。そして、果敢に家の中に侵入してくるのが、アカイエカなのです。

 

人間の血を吸う蚊は、何とも嫌な害虫ですが、蚊の気持ちになって考えてみます。

 

現代は、戸を開けっ放しだった昔と違って、家の中に侵入することが難しいのです。家の網戸をかいくぐるか、人間がドアや窓を開閉したのと同時に侵入します。しかし、家の中には蚊取り線香や虫よけ剤の罠が待ち受けています。彼女にとっては、毒ガス攻撃です。

 

無事にターゲットとなる人間を発見。うたた寝している間にミッションを実行します。彼女の口は、1本の針のようになっていますが、実際には6本の針が仕込まれているのです。まずは、最初の2本をメスのように使って人間に肌を切り裂いていく・・・次の2本は、肌が開いた状態で固定させるためのものです。

 

開かれた口に残りの2本の針を射し込んでいきます。1本は血を吸うためですか、もう1本はだ液を血管の中に注入していきます。このだ液の中には、麻酔成分が含まれていて、人間が痛みを感じないようにする目的の他に、血液の凝固を防ぐ役割もあります。そうしないと、血液が彼女の体内で固まってしまい、彼女は血を吸ったまま死んでしまうのです。

 

蚊の幼虫であるボウフラは水中で生活しますが、水道水のようなきれいな水ではボウフラが育つ栄養分がありません。彼女はプランクトンがわいているような汚い水を探して、今度は、家からの脱出計画を立てるのです。

 

彼女の体重は2~3グラムですが、血を吸った後は、5~7ミリグラムにもなります。重い体を抱えてフラフラと飛びながら、逃げ道を探します。そこで、かすかな空気の流れを感じたのです。「どこかの窓にすき間があるのでは・・・」そう思った彼女は、一瞬安堵します。しかし、同時に一瞬の油断をもたらしたのです。

 

「ピシャリ!」空気を切り裂く大きな音がしました。「嫌だわ・・・手に血がついちゃった」と、家の住人はペチャンコになった彼女の体を乱暴にティッシュペーパーでふき取ると、そのままごみ箱に捨てたのです。

 

どうですか・・・それでも、蚊を見つけたら「ピシャリ」とやりますか。