「らんまん」 とっておきの言葉

朝の連続テレビ小説「らんまん」が終了しました。植物学者・牧野富太郎をモチーフにし

たドラマでしたね。「らんまん」の意味は、花が咲き乱れるさま。きらきらと輝くさま。明るく、かげりのないさま。の意味がありますが、ドラマでは、「春爛漫」と「天真爛漫」の2つの意味が込められているそうです。あまちゃんの頃からでしょうか。いつしか、朝ドラが終了すると「○○ロス」と言われるようになりました。朝ドラと言えば、主人公が女性であることが圧倒的に多いのですが、今回は、あえて、男性の牧野富太郎が取り上げられました。

 

牧野富太郎は、高知の小学校を中退し、独学で植物学を修め、上京後は東京大学で助手、講師を務めた「日本の植物分類学の父」と呼ばれる人物です。しかし、誰もが知っているような有名人ではありません。私も、「らんまん」を見るまでは、牧野富太郎の名前は知りませんでした。

 

「らんまん」の脚本を担当したのは、劇団「てがみ座」主宰の長田育恵(おさだいくえ)さんです。「らんまん」の脚本の執筆を終えて、牧野富太郎をこう語ります。「究極的には、草花を愛するということを伝えた人。戦争など厳しい時代になってくると、草花を愛するなんて心は真っ先に捨てられます。でも、ひとが持っていても良い、当然の美しい心なのだと世に伝えてくれました。最大の功績です」

 

牧野が、数々の新種の植物を探し当て、新しく名前を付けることは、相手の「本当の名前」を見つけることでもあると長田さんは考えます。植物の氏素性を知り、性質や特徴、どこで生きるかも調べ抜いて初めて「本当の名前」を特定できる。この解釈を、長田さんは人物描写にも当てはめたのです。だから、らんまんの登場人物は、誰もが愛らしく憎めないのです。

 

「らんまん」の中で、長田さんは、本当にその人物にとって必要な言葉を考えたといいます。印象に残るシーンで、神木隆之介の演じる槙野万太郎が、祖母タキと対峙するシーンがあります。実家の造り酒屋を継がず、上京し植物学者へ進むことを決めた万太郎は、自身を育ててくれたタキに、こう告げます。「おばあちゃんの孫と生まれて、ほんまに、ほんまに、幸せでした」だが、タキはこう言い返すのです。「わしは、許さんぞね!わしは決して、おまんを許さんぞね。ゆるさんぞね・・・!」について、長田さんは「タキの、万太郎への最後の贈り物。『許さない』という言葉があるからこそ、それでも万太郎は出ていく。一生をかけて植物学の道を行く決意を万太郎にさせるんです。同時に、肉親としての愛情が深く伝わります。最大限の励ましの言葉です」と、このセリフの真意を語ります。

 

長田さんは、あの「井上ひさし」さんの最後の弟子です。研修生生活の最後の日に、井上ひさしがかけた言葉の束が、長田さんの背中を今も押しているそうです。「今日一日を、あなた自身の心の力で、良い方向へ向かわせなさい。人が人生で一度だけ言うような、言葉に本当の意味が宿る瞬間を、必ず劇の中に書き込みなさい」その2年後に、井上ひさしさんは世を去りました。

 

「らんまん」は、保育園の子どもたちが、屋上遊びで多くの草花に触れあっていることも、雑草なんてものはなくて、野草という考えも大好きで、毎日楽しみに見ていましたが、知らないうちに、脚本家長田さんの、登場人物にこめた「とっておきの言葉」に魅せられていたのかもしれません。

 

松坂慶子さんが演じたタキが、亡くなる直前「らんまんじゃ」とつぶやいたように、自分の人生の最後に、自分なりの「とっておきの言葉」をつぶやきたいですね。